アトピー性皮膚炎治療を注射で治す!新薬『デュピルマブ』(商品名:デュピクセント)
2018年4月23日より、アトピー性皮膚炎の治療に新薬が登場しました。(承認は1月19日)
新薬の名前は『デュピルマブ』(商品名はデュピクセント)。
開発はサノフィ・ジェンザイムとリジェネロン・ファーマシューティカル社によって行われた抗体医薬です。
月に2回の注射でかなりの軽快に繋がるとされる『デュピルマブ/デュピクセント』について、今回は書いていきたいと思います。
注射によるアトピー性皮膚炎治療『デュピルマブ/デュピクセント』とは?
『デュピルマブ/デュピクセント』とは、フランスのサノフィとアメリカのリジェネロンが開発したアトピー性皮膚炎治療のための抗体医薬です。
『デュピルマブ/デュピクセント』は抗体医薬によるアトピー治療
『デュピルマブ/デュピクセント』はアトピー性皮膚炎を引き起こすサイトカイン物質、インターロイキン4(IL-4)とインターロイキン13(IL-13)に対する抗体医薬となっています。
抗体医薬とは、病気の原因物質に反応する抗体を体内に注射することで、ピンポイントでターゲットに結合する医薬品のこと。
これにより副作用が少なく、数週間に一度の注射で治療可能というメリットがあります。
『デュピルマブ/デュピクセント』はインターロイキン4(IL-4)とインターロイキン13(IL-13)に対抗してアトピー性皮膚炎を治療
『デュピルマブ/デュピクセント』はアレルギー性疾患の関係する2型炎症反応を抑制する効果に優れた抗体医薬です。
アトピー性皮膚炎などのアレルギー反応ではTh2細胞(2型ヘルパーT細胞)という免疫細胞が過剰に働いて、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-13(IL-13)というサイトカイン物質を出します。
これがアトピー性皮膚炎の原因となる炎症、かゆみのもとになっていると言われています。(具体的には皮膚バリア機能の低下に繋がります)
『デュピルマブ/デュピクセント』はこのIL-4とIL-13に対抗する抗体医薬です。
これらサイトカインの受容体分子に結合することで、かゆみ、炎症の進行を抑えることが目的の薬となっています。
『デュピルマブ/デュピクセント』はアトピー性皮膚炎の原因となるTh2への分化も阻害
また、IL-4はTh0がTh2に分化するのも阻害します。
つまり、『デュピルマブ/デュピクセント』はTh2リンパ球に分化する上流部と、Th2リンパ球がサイトカインを放出する下流部の両方でアトピー性皮膚炎の悪化を抑える働きがあるお薬ということになります。
Th2はIL-4、IL-13の他にもIL-5、IL-31なども放出します。
これらIL-5やIL-31は皮膚の炎症を促進させる物質ですので、それらの反応も一定程度遮断することが可能になります。
『デュピルマブ/デュピクセント』はアトピー治療における注射薬として全身への使用が可能
『デュピルマブ/デュピクセント』は上記の通り特定のサイトカインだけをターゲットにした抗体医薬ですので、体内に直接薬剤を注射して治療することが可能になっています。
ここらへんが、作用範囲の広いステロイド外用薬との違いです。
ステロイド外用薬は効き目はあるのですが、影響する範囲が大きすぎるため一般的には内服はしません(重度の場合には内服もされてきたが、骨粗しょう症のリスクが高まるなど弊害が大きい)。
また、アトピー性皮膚炎においてはシクロスポリンなどの免疫抑制剤が内服で使用されることもありましたが、効果範囲がこれも広いことから内服できる期間は3カ月までと決まっていました。(腎臓障害、血圧の上昇などのリスクがあった)
今回の『デュピルマブ/デュピクセント』はそれらの問題点をかなりの部分でクリアした抗体医薬となっています。
『デュピルマブ/デュピクセント』によるアトピー性皮膚炎の治療は2週間に1度の注射でOK
『デュピルマブ/デュピクセント』によるアトピー性皮膚炎の治療は、二週間に一度の注射をすることで進めます。
腕や太ももなどの皮下注射で済みますので、かなり負担感の少ない治療方法になっています。
(注射は炎症部位以外にすることになります)
アトピー性皮膚炎治療薬『デュピルマブ/デュピクセント』注射はステロイド外用剤と併用しての治療が推奨される
なお、『デュピルマブ/デュピクセント』はあくまでも前身のかゆみを抑えるためなどに使われるアトピー性皮膚炎治療薬です。
即効性のあるものではありませんし、これだけですべてを改善することはできません。
基本的にはステロイド外用剤との併用で局所的なかゆみを抑えつつ、全身のかゆみも消していく感じになります。
既存の治療との組み合わせが推奨されています。
『デュピルマブ/デュピクセント』は中等症~重症の人に適用~ステロイド治療6カ月たっても改善が見られない場合など~
『デュピルマブ/デュピクセント』は新薬ですので安全性は完全には確立されていません。
ですので、投与はより慎重に行われています。
現在は6カ月間以上ステロイド治療を繰り返しても改善されないアトピー性皮膚炎の患者に『デュピルマブ/デュピクセント』が勧められるとのことです。
ここらへんは、治療によるリスクが減れば、使用が増えていくことになるでしょう。
『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療は高齢者と小児不可
なお、『デュピルマブ/デュピクセント』は承認されたばかりのアトピー性皮膚炎治療ですので、高齢者と小児への適応は不明となっており、認められていません。
現在15歳未満の小児はどんなに酷いアトピー性皮膚炎を患わっていても投与は許されていません。
このあたりは、何年かたって安全性が確認されれば変わっていくかもわかりません。
待ちましょう。
『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療は寄生虫感染症の疑いがある場合は不可
IL-4およびIL-13の作用による2型免疫応答は寄生虫感染に対する生体防御機能に関係していることが示唆されていますが(なので、一時期、寄生虫の粉を飲むとアトピーが治るとかいう民間療法がながされたんですね)、『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療ではこれを抑制することになります。
このことで寄生虫感染症が悪化する可能性が懸念されているため、『デュピルマブ/デュピクセント』注射をする前にはしっかりと寄生虫の駆除を行うことが求められています。
『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療は妊婦、産婦、授乳中は不可?
一応、妊婦、産婦、授乳中も不可と考えていいと思います。
新しい抗体医薬ですのでどういった影響が出るか全くわかりません。
やめておいた方がいいと思います。
ぜんそくなど、他のアレルギー疾患を患っている方は『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療は要注意
喘息などの治療をされている方は要注意です。
というのも『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療では、IL-4とIL-13の抑制がおきますが、この2つのインターロイキンはアレルギー性喘息の発症にも関係しています。
『デュピルマブ/デュピクセント』注射をしている際にはアレルギー性喘息も軽快しますが、注射をやめたとたんに喘息が急激に悪化、最悪の場合、死に至る可能性すらありえます。
とくにこれは皮膚科であるアトピー性皮膚炎と、呼吸器科、耳鼻咽喉科領域である喘息で通院先が異なる場合で大きな問題になります。
両病院の連絡がしっかりとれていないと、『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療が終了したのをしらずに、喘息の治療薬を減らした状態のまま、ということもありえます。
とても危険な状態におかれることはだれの目にも明らかでしょう。
というわけで、喘息の治療をしているかたは、皮膚科の先生にしっかりと喘息の治療を受けていることを伝える必要があります。
また、過去に喘息にかかったことがある場合なども、ちゃんと伝えておいた方がいいでしょう。
『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療は高額
はっきり言います。
『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療は、高いです。
初月、月に三本で7万3000円超
毎月、月に二本で4万9000円程度です。
めちゃめちゃ高いですので、医療費補助などを受けられるか、保険でカバーできるかた以外は、まずは別の治療を選択することがおすすめされます。
ここらへんは、徐々に安くなっていくことを期待するしかないでしょう。
『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療をするための条件
『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療をするためには、各種条件が必要なことを書いてきました。
以上の条件をもう一度まとめますと
- 寄生虫に感染していないこと
- 妊婦、産婦、授乳中でないこと
- 小児、高齢者でないこと
- 喘息持ちの方はちゃんと連絡すること
- 長期間にわたって高額の治療費を負担できること
さらにいくつかの条件があります。
- 月に2回の通院ができる方
- ステロイド、プロトピックなど他の治療を完璧にこなせる方
- 既存の治療法を完璧にしているにも関わらず、効果が不十分な中等~重症のアトピーの方
このなかでは、とくに3が微妙なものとなっています。
『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療を受けるには、ステロイドなどの外用薬治療をすることが条件
『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療は非常に高額な抗体医薬ですので、誰でも彼でも使われると保健医療が破綻します。
というわけでいろいろと条件がついているのですが、そのうちのひとつに
- 身体の表面におけるアトピー性皮膚炎の病変面積が10%以上
- IGAスコア が3以上
- 全身又は頭頸部のEASIスコア が16以上
というものがあります。
IGAスコア3は、アトピーのひどさで言うと中程度。丘疹形成や湿潤状態がそこそこある状態です。
EASIスコアは説明がめんどうくさいので検索してください。
要は身体をパーツごとにアトピー性皮膚炎の炎症度を数値化して表すほうほうです。
・・・で、『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療を開始するには、これらの基準をクリアしていることが指針として示されています。
とりあえず、ステロイドやプロトピック、保湿剤などをうまく利用しても軽快できない場合にだけ投与しろよ、ということを厚労省は言っているわけです。
あんまりバカスカ注射しまくってると怒られるので、なかなか選択できないクスリということにもなります。
とりあえず、そんなこんなでいろいろと制約のついた治療法ではあるものの、『デュピルマブ/デュピクセント』注射によるアトピー性皮膚炎治療がひとつの選択肢として用意されたことは喜ばしいことです。
今後はより安く、より使いやすい基準になることが望まれます。
期待して待ちましょう。